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ピサヌロークからウタラディットへ

バンコクを出て5時間、バスは休憩所に寄っただけで、停車することなく北へ向かって走っていく。午後1時頃、エンさんの故郷であるピサヌロークの近くを通過して、初めて山が見えてきた。
  
 バスは山中に分け入って、道路はS字というかU字と云えばいいのか、曲がりくねった道をあえぎながら登っていく。 バスが好きな私でも最後まで耐えられるかどうか不安になってくる。1時間後にバスはやっと山を抜け、町らしきところへでた。

 ウタラディットの町だ。 やれやれと思う間もなく、また峻険な山に挑戦するバスは、エンジンの強い新車でもやっと登れる状態だった。

 このあたりの山には自生のバナナがたくさん見られて、大きな房をつけていたが、食べられるのだろうか。

 10メートルを超す緑豊かな大木が、赤やピンクの花をいっぱいつけている。こんな可憐な色の花は、小さな草木に咲くのが日本の常識なのだが、タイの樹木はお構いなく派手なのだ。

 原色の花を眺めていて、バンコクで見る女性の服装を連想した。 若い女性もそうでない女性も、それはもう派手な色の服を好んで着用している。 それがまた、とても似合って美しく見えるのだからいやになる。 これも南国、樹木も女性の装いと同じなのだろう。

 バスは山脈の尾根ずたいに走っている。高い位置なので左右の見渡しは 最高、あちこちの山腹や谷の間には、山岳民族と云われる人たちの家々が散見できる。

 ふと谷底を見下ろすと、思いがけなく汽車が走っていた。 こんな山の中でまあ、どこに行こうとするのか。
 そうだ、私が乗った汽車はこれだ。ランパーンからウタラディットを通り、ピサヌロークまで乗った、凍えつきそうに寒かった汽車だ。

 あの汽車の冷房は、日本の真冬のような寒さだった。それでも超ミニスカートの車掌は笑顔で、弁当と冷たいジュースを配ってくれたっけ。 タイの自慢の特急列車の思い出は苦かった。

 やがて汽車は左遠方に去り、バスは右の尾根を回って、更に深山に分け入る気配である。



 

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