ランパーン

規格外の僧侶

  40代とおぼしき僧侶は、袋の中からペットボトルのお茶とお弁当を出して、少し早いお昼ご飯を食べ始めた。

 通常、朝早い托鉢で喜捨された食べ物を、正午までに食べて、午後からは何も食べないのが、僧侶の日々なのだが開いているお弁当は買ってきた物だ。今朝、托鉢に出ていない証拠だ。

  私はあまり見る気はないのだが、目の前なので嫌でも目にはいる。まず弁当を包んでいたビニール袋を車窓から外に捨てた。魚の骨も捨てた。食べ残しも捨てた。ずだ袋をかき回してありったけのゴミも捨てた。お茶でうがいをして車窓からはき出した。

 これが社会的地位が高く、人々から尊敬されるはずの僧侶のやることか。タイでは車窓からゴミを捨てるという習慣があるのかどうか知らないが、見るだけでも不快きわまりない。

 うがいしたお茶をはき出したのが、風にあおられて私の顔にかかりそうになって、「エエ加減にしとけえ」 と日本語で大声を上げると、きょとんとしていた。

 タイでは殆どが立派な僧侶で、お祭りにも葬式にも、嫁入りでも、棟上げでも、あらゆる機会に仏の道を説き、住民から絶大な信頼を得て尊敬されている。でも中にはこんなできの悪い坊主もいるのだ。
 
 まあこんな坊主でもお経の一つも唱えれば、ちょっとは庶民の役には立つか。不愉快なので、ずっと離れた坐席に避難した。

 しかし他人事ではないぞ。 我々の勤務していた場でも色々とあった。
 入学式後に、校長が生徒や保護者に向かって云う。これから1年生を担当される先生を紹介します。一番右の先生は3月に大学を卒業された××先生で、1年2組担任の先生です。教科は英語の先生です。なんてやってしまう。

 昨日までは、追い出しコンパだ、卒業旅行だと遊び歩いていた若いのが、一夜明ければ校長から、これだけ先生先生とみんなの前で云われるのだから、オレは先生かあ、などと勘違いして舞い上り、後々どうにも自省できず、先生と言われる駄目教師ができあがるのだ。

 話は横道にそれたが、汽車は透明な水の流れる渓谷を供にして、坂をあえぎながら登り続けて平原に達した。 このチェンマイ行きの汽車の旅は、車窓から見える美しい南国の風景とは裏腹に、尊敬を裏切る行為に終始した坊主に幻滅を感じたけれど、今晩からのバンコクはどのような表情で迎えてくれるのだろうか。

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花馬車の乗り心地は

 馬のいななきで目覚めた爽やかな朝である。ホテルの朝食ブッフェはどこに行っても代わり映えはしないが、年齢と共に朝食が一番美味しく食べられるようになってきた。中でもブッフェは体調に合わせて、料理を選択できるので有り難い。

 チェックアウトをすませて、今日はまたチェンマイへ帰るのだが、往路がバスだったので、復路は普通列車にしてみようとM氏と意見の一致を見て、国鉄のランパーン駅までの足を考えた。

 昨年一人で来たときに歩いてみたら25分ほどかかったので、日がかなり高くなったこの時間は少々きつい。

 そこで念願の花馬車の出番となった。通勤通学の時間は過ぎたものの、まだかなりの車が走っている。 その大通りの中央を我が馬車は誇らしげに悠々と、ひずめの音を響かせて 「そこのけそこのけお馬が通る」 とばかりに走るのだから、まさに快感である。

 感心したのは、交差点でもどこでも、道路の優先順位は馬車が一番、車が二番、残念ながら人は三番なのである。馬車がやってきたら車は停車するか避けるかするのだからたまらない。

 これに乗ったら多少は偉くなったようで、優越感をくすぐられる。 次ぎに来る機会があれば、また必ず乗ることになるだろう。 駅まで乗って一人300円は安かった。

 ランパーン駅でチェンマイまでの切符を買って、ホームで30分ほど待つと列車が入ってきた。幹線列車に乗るのは本当に久しぶりのことだ。
 めったに汽車を使わないのは、バスより遙かに時間がかかるから乗る気がしないのだ。でもたまに乗るのは気分が変わって趣がある。

 空席がたくさんある、気持ちのいい列車で楽しい旅になるぞ。と思ったが、次の駅から一人の僧侶が私の前に座った。 国民の尊敬を受けて敬まわれる存在だから、緊張するじゃあないか。

 今回ランパーンでは僧侶を見ることがなかった。 どんな田舎の村や小さな町でも、朝は托鉢のため何人かで列をなして歩いているはずなのだが、一人として見かけることはなかった。今日はどうしたのかと思っていた矢先の出来事であった。

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決して悪気ではないのですが

 夕食に立ち寄った食堂で、「この店のお勧めの料理を三品作ってください」 とタイ語で書かれたメモをオバサンに渡したところ、勇んで出ていったオバサンがなかなか帰ってこない。 

 そんな時、女主人とシェフらしき男性が現れて、ご注文は何でしょうか?  ちょっと待て、注文した料理は 「お勧めの料理を三品」 だ。 だから何を注文したのか分からない。

 それでも事情を説明しようと、メモを示し身振りも交えて奮闘するが、こんなデリケートな会話が出来るわけもなく、お互いに疲れて会話は絶えてしまった。諦めて気まずくビールだけを飲んで時は流れた。 あのオバサンどこへ消えてしまったのだろう。

 そんな時、注文をしたオバサンが颯爽と帰ってきたのであった。
やった! これですべて解決する。 と思ってよく見ると彼女の手にはビニール袋が下げられ、空芯菜とフクロタケ、名も知らぬ野菜の三点ほどが入っていた。そしてオバサンは、にこにこしながら立っていた。

 おいおいオバサン、頼んだのはお勧めの料理3品で、食材を3種類頼んだのではないよ。勘違いならよいが、タイ文字がよく読めないのなら悪いことをしたなあ。
事情が分かってみんなが大笑いしたが、オバサンも一緒に大口開けて笑っていたから安心した。無邪気なオバサンであった。

 私たちが改めて注文したのは、焼きイカのサラダ、五目野菜炒め、魚のすり身揚げ、海老の焼きめしで、それからビールも うまかったあ。
 メモなんか使わずに最初からすんなり口頭で、注文したらよかったと、しっかり反省した。 その後は店客ともども、和気藹々の夕食のひとときが持てたからまずはよかった。

 夕食が終わって夜が更けて、空を見上げると日本では見かけない無数の星達が瞬いている。 二人は遠く離れた南国で、何思うことなく星を見上げる幸せをかみしめながら、ホテルにたどり着いた。 遠くには、まだ馬のひずめの音の残る睦月の夜であった。

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花馬車の走る街

 北方の薔薇と、みんなに愛されるチェンマイも、心ない中国人観光客の振る舞いによって、非常に心証の悪いチェンマイとなってしまった。

 気を取り直して今日はチェンマイから、南へ約90㎞の距離にあるランパーンを訪ねることにした。チェンマイからランパーンへ向かうバスは、ピン川の畔から出ているが、このバスには乗ってはいけない。というのはここからのバスは、時間ばかりかかる普通バスしか出ていないからである。

 エアコンバスは、チェンマイではアーケードバスターミナルが始発となっている。ここから出るバスは、大きなターミナルしか停車しないので、所要時間も少ない。

 ところがこのターミナルで、調べてみるとランパーン行きの表示はどこにも無いのだ。
ランパーンへ行くには、バンコク行きの大型エアコンバスがランパーンを通過するので、このバスを利用して、途中のランパーンで下車をしなければならない。

 時刻表には 「行き先」 の表示しかなく、途中の町の記載がないので、チケット売り場では十分確認する必要がある。また途中で降りる場所も定かではないので、車掌に告げておき、到着したら知らせてくれるよう依頼をしておく。気ままな旅はなかなか難しい。

 快適なバスは約2時間で、花馬車で有名なランパーンの町に到着した。バスターミナル付近で昼食をすませ、ソンテウで今日のホテル「ウィエントンホテル」にチェックインした。ホテル内を見渡してみると、昨日のホテルが最悪だっただけに、ここが何といいホテルと感じられることか。

 このホテルもそうだが、田舎の高級と言われるホテルの大多数は、町の中心から離れた場所に建てられている。
車で動ける人には最高なホテルなのだろうが、一般の交通機関で移動する旅人には不向きだ。あたかも車も持たない人は来るな、と云われているようで、ひがみたくもなる。

 仕方なく、くたびれたソンテウをチャーターして、名所や寺院を一応見学をしたが、見るべきものは少なかった。

 ホテル前が花馬車の基地になっており、美しく飾った馬車が数台並んで客を待っていていたが、花で飾られた小型の馬は実に可愛い。 アスファルトで舗装された大通りを、たてがみ をはためかしながら、ポクポク小走りで行く姿は、町の雰囲気を和ませている。ランパーンでは毎日この馬車が走っているのでとても趣がある。

 町はずれのホテルなので、夕食を食べるところの有無が心配である。外出をしてレストランを探してみると、少し離れたところに小さなタイ料理店があって夕食の準備に余念がないかった。

 夕方を待ち、この店で食事をしようと出かけてみると、まだ客はなくオバサンが一人で食材の準備をしていた。

 実は数年前タイ語教室のゴー先生(現在アントーン大学の先生)に書いてもらった、タイ語のメモを持参していたので、今日はこれを使ってみよう。
 このメモには、タイ語で 「この店のお勧め料理を三品ほど作ってください」 と書いてあるのだ。

 食材の下ごしらえをしているオバサンにメモを見せると、彼女は鷹揚にうなずいて出ていった。ところが彼女がなかなか帰ってこない。

 しばらくして、店の女主人と身なりを整えたシェフのようなのが奥から現れて、ご注文は? エッ これは困った。  先ほど三品注文したのだが、お任せの注文なので何を頼んだか分からない。 答えようがないではないか。

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