マハチャイ

マハチャイの街

  ディーゼル列車の哀願に答えて動き出した物がある。 窓から身をのり出して前方を眺めると、何と線路が見えないほどに市場が広がり、線路の荷を片づけテントを動かさないとディーゼル列車が通れないのだ。

 市場の連中は手際よく動かして、列車は遠慮がちに市場内の終着駅に入線することが出来る。
ディーゼル列車から降りて後方を見ると線路は魔法のごとく消えて、元の市場ができていた。

 市場の中のマハチャイ駅をでて、前の通りへ出ると港の匂いが充満していた。さすがに歴史ある漁港の街だ。通りを埋め尽くすように並んだ店先には、小さなイカの乾物(スルメになりきれていない)や干し海老が山積みにされていた。道路から小道へ入ると大小取れたての鮮魚だ。

 アジや鯖、サワラなどは顔なじみなので美味しそうに見えるが、大きな色鮮やかな熱帯の魚なんかは、食べようとは思わない。 

 この街の人々は中国系のタイ人が多いようだが、「写真を撮っても良いですか」と許しを得て珍しい魚や干物の山を撮ろうとすると、私も写せとポーズをとる人まででてくる。
陽気で楽天的なのである。
撮した写真を翌年持って行くと、大喜びで冷たいジュースなんかのご馳走になる事もあった。

 駅前の通りを右へ進むと公園がある。その手前を左に行くと、渡船があってターチン川の対岸まで渡してくれる。この渡し場の隣がレストランになっていて、ここの二階で食事をするのが良いだろう。
普通の食事もシーフードも充実しているし、トイレも利用できる。

 この街でトイレが使用できるのは、このレストランと公園の中の3バーツトイレ、さらには駅の2階にある職員用トイレくらいだろう。

 このターチン川の河口は、左から流れてくる運河と接していて、かなりの濁った水が淀んでいる。 ホテイアオイが繁茂し、常時船のスクリュウがかき回しているから、海底に住む小動物、プランクトンが巻き上がり、それを狙ってホテイアオイの葉の上は白鷺が餌場としていた。

 小魚などをうまく捕食するのが面白く、飽きずに見ていたら可愛い鰐まで遊んでいた。まだまだ見物がある。それは対岸のバーンレームまでの渡船だ。

 5分おきくらいに往復している渡船には、人だけでなく自転車もバイクも乗せている。

|

マハチャイ線のディーゼルが発車する

 バンコクの下町の更に下町、ウォンエンヤイ駅から4人グループでマハチャイへと計画を立てたことがあった。私がタイに行き始めた頃の事である。

 まずマハチャイまでの切符を買うのが私の役目、どんな事が起こっても誰も手助けしない約束なので、かなり緊張したのをよく覚えている。四人分だから窓口で 「マハチャイ、フォー」 と云っちゃった。
手渡された切符は6枚だった。 こんなに要らないよ。

  安い授業料である。冷静であればこの程度のことは分かっているのだが。 つまりタイでは1~6
の数を ヌン、ソン、サーム、シー、ハー、フォッ、と云うのだ。 そこで言い間違えと聞き違えが同時に起こって、6枚の切符が手渡されることになったのだ。 その頃も人一倍気は弱かったので、涙をのんで6枚とも受け取ってしまった。

 余分に買った2枚は密かにポケットに入れて、残りを3人に配ると、おいこの切符全部2等の切符やで。
2等車はどこに付いとるんや。 知らんがな。 初めて自分で動き始めた頃の苦い思い出である。

 この線の列車は全部ボロ気動車で、名前はすべて2等車となっていた。ただ料金は3等車なみと不可解な設定であった。 そんなこと、分かるはずもない。

 こんな事を思い出しながら、乗車した列車は、さらに古ぼけて硬いプラスチックの坐席、開閉できない窓、故障の扇風機などと、可哀想なほどの年代物となっていた。

 列車の古さなど云える義理か。古くなったのは自分の身体ではないか。百円ショップの座布団持参でなければ、たった1時間のプラスチックの椅子さえ辛いのだ。

 ウォンエンヤイ駅から動き始めた列車の車窓は、名も知らぬお寺や学校、スラムの密集地などを見せてくれ、沼地や荒野をも後にする。
時々停車する駅も駅舎が小さくなり、ついには駅のホームすら無くなった。

 そんな駅でも数人は乗降しているが、お婆さんや子ども達の乗降には、必ず誰かが手をさしのべて介助している。 駅に停車したので周りを見渡してみても家がない事がある。

 注意してみると木陰で昼寝をしている若いのがいて、降りてきた人を横に転がしてあるバイクに乗せて走り去る。 これで生計を立てているのだ。

 海沿いの線路の状態は悪く、左右上下に揺れながら列車は1時間かかって、マハーチャイに近づいて、警笛を何度も鳴らしていた。 この弱々しい警笛は 「汽車がやってきましたよ。通してくださいよ」 と哀願しているのだ。

|

メークローン線に乗って 鄙びた漁村へ

  終着駅に列車が近づくと、もの悲しそうな汽笛を鳴らして古ぼけたディーゼル車は最徐行を始める。 すると前方に佇んでいた多くの人々が、「またか」と言わんばかりに、ゆっくりと列車の通る場所を空けるのだ。

 つまり、駅の近くは、レールが市場に占拠されていて、汽車は遠慮がちに市場の中の終着駅へ入線するのだ。そんな馬鹿なところが有るんだろうか。
こんな港町へ向かう、タイ国鉄で一番古いメークローン線の列車に乗車した。

 昔はシェラトンホテルの横から出る渡し船で、対岸のクロンサーン桟橋に降りると、そこから列車に乗車できたそうだが、時代の流れか始発駅は次第に後退して、現在のウォンエンヤイ駅がメークローン線始発駅に昇格したのである。

 いままでは、このトンブリー地区にあるウォンエンヤイ駅へ行くのにずいぶん苦労をした。
しかし、BTS高架電車(スカイトレイン) が今年からチャオプラヤ河を越えて、ウォンエンヤイまで延伸されたから、簡単にメークローン線の始発駅であるウォンエンヤイ駅に行くことができる。

 ただBTSの駅と国鉄ウォンエンヤイ駅が離れているから困るんだ。駅から駅へ連絡するバスが無いので、タクシーを利用するか、へそ曲がりの私のように歩くしかない。

 BTS高架電車ウォンエンヤイ駅(終着駅)、右側の階段を降り進行方向へ200メートル進みタークシン通りを渡って、通りの左側歩道を徒歩10分、めでたく国鉄ウォンエンヤイ駅へ到着する。
この始発駅は、日本の常識では考えられないような駅なので、十分に気をつけないと通り過ぎてしまう。

 注意していると、ン これは? と思われる所があるから、これが駅である。 入ってみるとさすがにレールは2本敷いてあって、ホームには食べ物や雑貨の屋台やお店が雑多に並んでいる。
時にはホームをバイクで走っているヤツさえ現れるので困ってしまう。

 以前は入るのにも躊躇するような、うすぎたないトイレだったが、今年から改装して新しくなったので
無理なく利用できるようになった。美しくなっても前と同じ3バーツの料金である。

 ホームに入ったすぐに切符売り場があり、買いに行っても大概閉まっている。これは発車10分前くらいに窓口が重々しく開いて、行き先を 「マハチャイ」 と告げるとパソコンから打ち出された切符が手渡される。終着駅マハチャイ駅までの料金は30円であった。

 ここで切符を買っておかないと、時には災難が降りかかる事がある。 車内でも買うことが出来るはずだが、列車内には注意書きがタイ語で書いてある。それに 「切符を持たないで乗車すると、罰金として300円を徴収します。」 と書いてある。とタイ人が教えてくれた。

 タイ人以外には、そんな貼り紙を読める者はおらんで。 でもときどき捕まって哀願しているのを見かけることがある。 やはり時にはあるんだ。

|